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卸売市場とは、卸売業者(大卸)が集荷した生鮮食品を仲卸業者が買い付け、飲食店や小売業者に販売する場所のこと。そして、卸売市場内の取引を適正化し、食品の生産・流通を滞りなく進めることを目的として定められている法律が「卸売市場法」です。
1971年の施行以来、卸売市場法は1999年と2004年の2回に渡る改正が行われました。時代と共に変化していく食品流通を取り巻く状況に鑑み、適宜規制を緩和することで、より現状に即した法律に変えてきたのです。
そして、去る2018には3回目の法改正が決定。2020年6月21日から、新たな卸売市場法が施行されました。最新の卸売市場法ではこれまでと何が変化し、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。市場関係者から問題視されている点も併せて、一つずつ解説します。
卸売市場には、国から認可を得て開設する中央卸売市場と、都道府県から認可を得て開設する地方卸売市場の2つの種類があります。これまでの場合、中央卸売市場を開設できるのは、農林水産大臣の認可を受けた地方公共団体(都道府県または人口20万人以上の都市)のみでした。
しかし、法改正後はこの縛りが撤廃されることに。一定の認定基準・認定要件を満たして農林水産大臣の認可を受ければ、民間業者でも中央卸売市場を開設・運営することが可能となります。
直荷引きとは、仲卸業者が産地やメーカーから直接商品を仕入れることを指します。これまでの場合、中央卸売市場内の仲卸業者は、原則として市場内の卸売業者(大卸)を通して商品を仕入れることが義務付けられていました。しかし、法改正後となる2020年6月21日以降は、仲卸業者が産地やメーカーと直接やり取りをして商品を仕入れることが可能となっています。
これまで、卸売業者(大卸)が集荷した生鮮食品の販売先は、市場内の仲卸業者や売買参加者(仲卸業者と同じように競りに参加している小売業者や加工業者など)に限られていました。しかし、法改正後はこれらの業者に限らず、市場外の飲食店や小売業者にも品物を卸すことが可能となっています。
これまでの卸売市場法では、仲卸業者が仕入れた食材をすべて卸売市場内に搬入してから販売する必要がありました。このことを「商物一致」と呼びます。しかし、法改正によって商物一致が廃止されたため、産地から飲食店などに直接食材を送ることが可能になりました。
自己買受けとは、販売を委託された商品を卸売業者(大卸)自らが買い受けることを言います。これまでの卸売市場法では、市場取引の安定性を確保するため、自己買受けは禁止されていました。しかし、「安定的な供給のためには、一定量の商品を確保しておいた方がよいこともある」という視点から、今後は卸売業者による自己買受けが認められることとなりました。
卸売市場法の改正に伴って期待されるメリットには、主に次のようなものが挙げられます。
まず、流通競争の活性化による農家(生産者)の利益アップが期待できます。また、流通ルートの規制緩和によって輸送効率が高まることで、流通コストの削減にもつながるでしょう「生鮮食品を全て一度卸売市場に搬入する」ルールの撤廃により、産地から小売店などに新鮮な食材をスピーディに届けることも可能となります。
そして、仲卸業者が卸売業者(大卸)を介さずに産地・メーカーから買い付けを行えるようになったため、大卸では対応が難しかった小ロットの注文にも応じられるようになります。さらに、「卸売業者(大卸)は同じ市場内の仲卸や売買参加者にしか卸売をすることができない」というルールの廃止により、市場同士で品物の過不足調整も円滑に行えるようになるでしょう。
改正によりさまざまな利点が期待できる一方で、市場関係者からは懸念の声が上がっているのも事実です。
これまでの卸売市場では、「生産量の少ないものには高値がつき、量が豊富に確保できているものは安価になる」という需要と供給のバランスが保たれていました。しかし、一般の企業による中央卸売市場の開設が可能となると、大企業による価格操作などの問題が発生する可能性も。その結果、需要と供給のバランスが崩れ、市場の公共性が損なわれることが懸念されています。
「卸売業者が仲卸に売り、仲卸が飲食店・小売店などに売る」という図式があった従来の卸売市場。卸売業者は生産者のためにできるだけ商品を高く売り、仲卸は飲食店や小売店のためにできるだけ商品を安く買い付けるという各々の努力により、生産者と飲食店・小売店のどちら側にも適切な利益が出るようなバランスが自然に保たれていました。
しかし、法改正後は飲食店や小売店による卸売業者からの直接買い付けが可能となっています。そうなると、これまで保たれてきた均衡が崩れるばかりか、卸売市場の役割そのものも揺らぎかねないことに。財政状況によっては、廃業を余儀なくされる市場や業者も出てくるでしょう。
飲食店や小売店が仲卸業者の目利きや品揃えに頼っていた場合、市場が衰退することで「良質な生鮮食品の仕入れが困難になる」という問題に直面する可能性があります。新たな仕入れルートを確保できない場合は、大きな打撃を受けることとなるでしょう。
3度目の法改正が決まった2018年以前から、いわゆる市場外流通(飲食店や小売店が、市場を介さず生産者から直接食品を仕入れること)はさほど珍しいものではありませんでした。市場関係者からの反発も大きいこの度の法改正ですが、「ルールが現状に追いついた」と捉えることもできるかも知れません。
規制緩和に伴い、今後はより様々な仕入れ方法を検討できるようになります。「市場に出向き、卸売業者から直接買い付ける」「パワーのある仲卸業者を見つける」など、自社と相性の良いルートを開拓しましょう。